産経新聞の記事を紹介します。
介護サービス利用者の2割負担、8月から導入 年金収入280万円以上が対象
一定以上の所得がある人は8月から、介護保険サービスの利用者負担が1割から2割に引き上げられる。年金収入だけなら、原則280万円以上の人が対象で、65歳以上の2割が相当する。通知が直前になる自治体もあり、混乱が懸念される。(佐藤好美)
◆1割か2割か…
東京都内に住む小川恵子さん(62)=仮名=は、夫と恵子さんの父親(89)、母親(85)の4人暮らし。父親の介護サービスの利用者負担が8月から2割に上がるのではないかと、ハラハラしている。
小川さんは、要介護2の父親と母親の在宅介護を担っている。だが、五十肩が悪化し、医師から「重いものを持ったり、押したりしてはいけない」と厳命を受けた。「60過ぎて五十肩だなんて…」と気が重い。両親が家にいると、つい無理をしてしまうので、今は2人に特別養護老人ホームのデイサービスやショートステイなどを利用限度額近くまで使ってもらっている。
幸い、2人とも施設に行くのを楽しんでおり、父親が母親の車いすを押す光景も見られる。しかし、利用料も2人分。しかも、8月からは所得の高い人は2割負担になるという。
「母親の収入は国民年金だけなので心配ないですが、父親は厚生年金があり、課税されている。2割負担にはならずに済むと思いますが、通知が来るまで気が気ではありません」
2割負担になるのは、65歳以上で「合計所得が160万円以上の人」。「合計所得」とは、収入から「給与所得控除」や「公的年金等控除」、「事業の必要経費」を差し引いた後の所得のこと。収入が年金だけなら、280万円以上の人が該当する。
ただし、例外規定がある。本人に280万円以上の年金収入があっても、世帯内に年金の少ない高齢者がいるケースだ。世帯の収入が年金だけの場合は、65歳以上の人の年金を合計して346万円未満なら、2割負担にはならない。
◆月額負担に上限も
小川さんの場合、現在は父親も母親も介護サービスの利用者負担は月にそれぞれ2万円ほど。ショートステイを使ったときの食費や居住費はこれとは別だ。父親が仮に2割負担になれば、父親の利用者負担は8月分から4万円ほどになる。2割負担になるのは、所得の多い本人だけなので、母親は2万円のままだ。
ただ、利用者負担の合計が必ずしも世帯の負担額になるわけではない。介護保険には、月々の利用者負担が一定上限を超えると、払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」がある。
この高額介護サービス費の上限額も、8月から引き上げられる。これまでは「世帯で月額3万7200円」が上限額の最高区分だったが、所得が「現役並み」(単身のモデルで収入383万円以上)の人のいる世帯に「世帯で月額4万4400円」の区分が新設される。
小川さんの父親の場合、利用者負担が2割になれば、父親と母親の利用者負担の合計は6万円になる。だが、高額介護サービス費は3万7200円の区分が適用されるので、6万円との差額にあたる2万円強が後で払い戻される。所得区分の判定は市区町村が行い、対象者には申請書類が送られてくる。送り返すのを忘れないようにしたい。
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■ケアマネ当惑、対応さまざま 「負担割合証、届かない」「所得情報の扱い困る」
介護保険サービスの「負担割合証」の発送時期は自治体で異なり、既に発送の済んだ自治体もあれば、7月下旬になるところも。遅くなれば介護サービスのプランや計算書を作るケアマネジャー(ケアマネ)の仕事に影響が出る。
ケアマネは利用者宅で書類を見て負担割合を知るのが原則。だが、神奈川県のあるケアマネは「まだ負担割合証が届かない。自治体に聞いても教えてくれないと思うし、生活ぶりを見て2割だろうと思われる人には注意喚起している。『費用が倍になるなら、サービスを減らしたい』という人もいるのに、相談できない」と当惑する。
自治体によっては発送前や後などに「ケアマネから問い合わせがあれば、負担割合を教える」というところも。だが、利用者の所得に触れる情報とあって扱いも複雑。「利用者宅から電話してもらい、折り返しで電話して、本人の同意を取って伝える」など、工夫を凝らして混乱回避をはかる。
厚生労働省は6月末、ケアマネの団体「日本介護支援専門員協会」に「協力のお願い」を出した。ケアマネに制度を理解してもらい、利用者が高額介護サービス費や施設の食費・居住費の減額申請をする際の助力を求める内容だ。
しかし、受け止めはさまざま。東京都のあるケアマネは「所得や財産に関する情報は成年後見の仕事で、私たちは扱わないのが原則。そういう情報を記載する書類の作成に協力を求められても困る」と反発する。一方で、神奈川県のケアマネは「本人から要望があれば、できる範囲のことはする。ただ、所得や財産を見せたくない人もいる。『見せろ』という話でもないので、『分からなければ役所に相談してくださいね』と言っている」と対応は、ばらつく。
ケアマネは介護サービスを使う場合の最も身近な相談相手。本人や家族には頼みの綱だ。だが、財産や所得にまつわる申請を丸投げされても困るというのも本音。行政はもちろん、事業者、ケアマネ、遠方に住む家族も今月、来月は特に、利用者への目配りが欠かせない。